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チーム開発で本当に大切なのは「技術」ではなく「コミュニケーション」という話

リモートワークが当たり前になった今、開発チームのコミュニケーションはより重要になっています。円滑なチーム運営のコツを実体験とともにお話しします。

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なぜコミュニケーションが技術より重要なのか

「優秀なエンジニアが集まれば、良いプロダクトができる」

これは、私が新卒でエンジニアになった頃に信じていた考えでした。しかし、10 年以上チーム開発に携わった今、この考えは半分正しくて、半分間違っていることがわかります。

確かに技術力は重要です。しかし、どんなに技術力の高いエンジニアが集まっても、コミュニケーションが機能していないチームでは、良いプロダクトは生まれません。

実体験:コミュニケーション不全が招いた悲劇

ケース1:「暗黙の了解」が招いた大規模バグ

数年前、ある web アプリケーションの開発チームに参加したときのことです。技術的にはとても優秀なメンバーが揃っていました。

プロジェクトが始まって 2 ヶ月ほど経った頃、フロントエンドとバックエンドの api の仕様認識にズレがあると発覚しました。

フロントエンド側の認識:日付フォーマットは YYYY-MM-DD バックエンド側の実装:日付フォーマットは MM/DD/YYYY

このズレに気づいたのは、本番リリースの 1 週間前。急遽修正作業に追われ、リリースが 2 週間延期になりました。

原因は、「当然こうだろう」という思い込みと、詳細仕様の確認不足でした。お互いに優秀だったからこそ、「相手もわかっているだろう」という過信があったのです。

ケース2:リモートワークで見えなくなった「困っているサイン」

コロナ禍でリモートワークが始まった当初、私たちのチームでは大きな問題が発生しました。

普段なら気軽に相談していた新人の B さんが、一人で抱え込んでしまったタスクがありました。オフィスなら表情や様子で「困っている」とわかったはずですが、リモートワークではそのサインを見逃してしまいました。

結果的に、B さんは 3 日間同じ問題で悩み続け、最終的にタスクが大幅に遅れることになりました。

「もっと早く相談してくれれば…」という後悔が残りました。

チーム開発におけるコミュニケーションの3つの側面

これらの経験を通じて、チーム開発でのコミュニケーションには 3 つの重要な側面があるとわかりました。

1. 情報共有:「何を」「いつ」「どこで」伝えるか

適切な情報共有のルール

現在のチームでは、以下のルールを設けています:

Daily Standup(毎日15分)

  • 昨日やったこと
  • 今日やること
  • 困っていること・ブロッカー

Weekly Review(毎週30分)

  • 先週の振り返り
  • 来週の計画
  • チーム全体で共有すべき学び

設計判断の記録

  • なぜその技術を選んだのか
  • どんな議論があったのか
  • 将来見直すべきポイント

これらを Slack + Notion で管理し、いつでも誰でもアクセスできるようにしています。

情報共有で大切な「粒度」

情報共有で注意しているのは適切な粒度です。

細すぎる共有:「ファイルを保存しました」 ❌ 粗すぎる共有:「機能を実装しました」 ✅ 適切な粒度:「ユーザー登録機能のバリデーション部分を実装。メールアドレスの重複チェックと強度確認を追加」

2. 相互理解:異なる専門性を持つメンバー間の橋渡し

専門用語の「翻訳」

チームには様々な専門性を持つメンバーがいます:

  • フロントエンドエンジニア
  • バックエンドエンジニア
  • デザイナー
  • プロダクトマネージャー

それぞれが異なる「言語」を話すため、翻訳者の役割が重要になります。

例えば、デザイナーから「この画面遷移をもっとスムーズにしたい」という要望があったとき:

デザイナーの意図:ユーザビリティの向上 エンジニアの解釈:アニメーションの改善?パフォーマンスの最適化?

このギャップを埋めるために、私たちは具体例ユーザーストーリーで説明するようにしています。

「なぜ」を共有する文化

技術的な判断をするとき、結論だけでなく理由も共有することを心がけています。

❌ 「Reduxを使います」
✅ 「複雑な状態管理が必要なので、Reduxを使います。
   Context APIも検討しましたが、パフォーマンスの観点から
   Reduxの方が適していると判断しました」

これにより、チーム全体で判断基準を共有でき、一貫性のある意思決定ができるようになります。

3. 心理的安全性:質問しやすい・失敗を共有しやすい環境

「わからない」と言える文化

一番大切なのは、「わからない」と言える環境です。

私たちのチームでは、以下のようなルールがあります:

  • 質問に対して否定的な反応をしない
  • 「前に説明したよ」は禁句
  • わからないことを恥ずかしがらない

実際、私も新しい技術領域については「わからないので教えてください」と素直に聞くようにしています。リーダーがそうすることで、チーム全体に「質問 OK」の雰囲気が生まれます。

失敗を学習機会に変える

失敗やミスが起きたとき、犯人探しではなく改善策の検討に焦点を当てます。

「なぜこのバグが起きたのか?」 ↓ 「どうすれば同じバグを防げるか?」

この視点の転換により、チームメンバーは失敗を隠すのではなく、積極的に共有するようになりました。

リモートワーク時代のコミュニケーション戦略

意図的な「雑談」の時間

リモートワークでは、雑談の機会が激減します。しかし、雑談こそ信頼関係の基盤になります。

私たちは以下の取り組みをしています:

Virtual Coffee Break(週2回、30分)

  • 業務の話は禁止
  • 最近読んだ本、見た映画、趣味の話
  • ペットの写真共有(これが意外に盛り上がる)

Pair Programming Time

  • 単純に作業効率のためだけでなく
  • お互いの考え方や判断基準を知る機会
  • 自然な形での知識共有

非同期コミュニケーションの活用

リモートワークでは、非同期コミュニケーションが重要になります。

Slackの効果的な使い方

チャンネル設計

  • #dev-frontend / #dev-backend:技術的な相談
  • #random:雑談
  • #standup:日次の進捗共有
  • #decisions:重要な意思決定の記録

スレッド機能の活用

  • 長い議論はスレッドで
  • メインチャンネルはクリーンに保つ

絵文字リアクション

  • 「了解」の意味で✅
  • 「ありがとう」の意味で🙏
  • 「面白い」の意味で😆

簡単なリアクションでも、相手に「見たよ」「理解したよ」が伝わります。

コミュニケーションスキルは「技術」として学べる

多くのエンジニアは、コミュニケーションを才能センスの問題だと考えがちです。しかし、私の経験では、コミュニケーションは技術として学習・改善できるスキルです。

実践的な改善方法

1. 聞く技術を磨く

× 相手の話を聞きながら、反論を考える
○ 相手の話を最後まで聞き、理解に努める

× 「でも」「しかし」から始める
○ 「なるほど」「確かに」から始める

2. 説明の技術を磨く

PREP法を意識する:

  • Point:結論
  • Reason:理由
  • Example:具体例
  • Point:結論の再確認

3. フィードバックの技術を磨く

SBI法を活用する:

  • Situation:状況
  • Behavior:行動
  • Impact:影響
例:「昨日のミーティングで(状況)、Aさんが積極的に質問してくれたおかげで(行動)、みんなの理解が深まりました(影響)」

さいごに:技術とコミュニケーションの相乗効果

この記事を書きながら改めて思うのは、技術力とコミュニケーション力は対立するものではないということです。

むしろ、高い技術力を持つエンジニアこそ、その知識を適切に共有し、チーム全体の技術力向上に貢献する責任があります。

そして、良いコミュニケーションがあるチームでは:

  • 技術的な議論が活発になる
  • 新しい技術への挑戦がしやすくなる
  • 品質の高いプロダクトが生まれやすくなる

これらの相乗効果により、個人としてもチームとしても、より大きな成果を生み出すことができます。

明日からできる小さなことから始めてみませんか?同僚に「お疲れさま」の一言を伝える、困っている人に「何か手伝えることはありますか?」と声をかける、そんな小さなコミュニケーションが、やがてチーム全体の生産性向上につながっていくはずです。


この記事は個人的な体験と学習に基づいています。チームやプロジェクトによって最適なコミュニケーション方法は異なりますので、参考の一つとしてお考えください。

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